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ウェブ残念化論(あるいはウェブ▲2.0)の本棚

梅田望夫ウェブ進化論』が刊行されて10年が経った。

実のところ僕は未読なのだけれど、あまりに多くの本で紹介されすぎて、読んだ気分になってしまうほど有名な本だ。

 

 

ウェブ進化論』の紹介で必ず触れられるのが「ウェブ2.0」という概念で、これは今では当たり前になった「ネットの双方向性」により、社会がそれ以前から変化していくことを指す。

平成生まれの方などは「双方向でないインターネット」のほうが想像しにくいかもしれないが、例えば企業ホームページなどは一方通行の情報発信の性質がいまだに根強い。

双方向が「今では当たり前になってしまった」ということは、この本で紹介されていたことが現実になったと言えるだろう。

 

ところが、多くの場合『ウェブ進化論』はネガティブな意味で紹介される。その理由としては、あまりにもウェブに期待しすぎた、あるいは期待を持たせすぎた点にあるだろう。

ただし、その「前向きな期待」が全面的に間違っていたわけではない。この「前向きな期待」に沿った本には、例えば以下のようなものがある。

※『一般意志2.0』の単行本は2011年11月刊であり、以下の3冊は概ね『ウェブ進化論』から2~3年間隔で刊行された時系列順だ。

  

 

 

 

 ところで、2016年4月9日にアップした記事で中心的に紹介した本、堀内進之介『感情で釣られる人々』では、「感情の動員」という言葉が多用されている。これは参考文献として記載はされていないが、津田大介氏の著書『動員の革命』のタイトルを意識したフレーズではないか?というのが僕の推測だ。

 

 

しかし、 双方向性を持ったウェブ、とりわけSNSソーシャルメディア)を伴った社会は、既にその「残念さ」も露わになってきた。

もちろんソーシャルメディア以前にその「残念さ」が存在しなかったわけではない。例えば内田樹『街場のメディア論』ではネットではなく既存のマスメディアについて「残念さ」に通じる内容が書かれている。

 

 

ここでいうウェブ情報、主にネット記事の「残念さ」とは例えば以下のようなものだ。2016年には「WELQ問題」や「フェイクニュース」などが大きなトピックになった。そしてネットで盛り上がるのはテレビのワイドショーと同じような芸能人の不倫だったりする。また現在では「インターネットによる双方向性」を大いに活用した「メルカリ」などのフリマアプリの問題が指摘されている(なお、僕はアプリ運営側よりも、利用者側の問題が大きいという立場だ)。

東日本大震災での「デマ」が非常時における問題だったのに対し、2016年以降に指摘されているのは平常時にそれとなく身の回りにある問題であることに注意が必要だろう。

 

 さて、前置きが長くなったけれど、「ウェブの残念さ」について書かれた本としてここで紹介するは中川淳一郎ウェブはバカと暇人のもの』だ。ページの最初をめくるとなかなか衝撃的な構成になっているが、いたって真面目な本である。

2009年4月刊行にも関わらず、冒頭から「Web 2.0ってどうなった?」と疑問を呈する。以降も、まるで未来を見てきたかのように現在に至るまでのネットの「残念さ」について記述されている。

目次小見出しを一部を紹介すると

「さんまやSMAPは、たぶんブログをやらない」

「ネットの声に頼るとロクなことにならない」

「これからも人々は大河ドラマ紅白歌合戦を見続け、「のど自慢」に出演する」

「ブログに書く理由は「タダ」だから」

といった具合だ。

 

 

 この同年に、既に紹介した津田大介Twitter社会論』で「140字のつぶやきが世界を変える」と論じられ(そして一部は確かに実現し)「前向き」に信じられてきたのだった。

しかし現在・現実は中川淳一郎氏の指摘に近いのではないか。

とりわけ、インターネットの世界で育ち、それを前向きに作り上げてきた家入一真氏(読書に関するサービス「ブクログ」の開発者でもある)が『さよならインターネット』という本を刊行するに至ったことは興味深い。

 

  

本書にあるように家入氏がインターネットにおいて「自由と可能性に満ちた世界は閉ざされつつある」「やさしかった世界は消失した」と感じるのは「ウェブ2.0以前の世界」を知っているからだろう。この本では、引きこもりだった中学生時の1992年に電話回線でパソコン通信をしていたころからのネット社会の変化が書かれている。ただし家入氏は完全にインターネットに別れを告げようというわけではない。

 ちなみに家入氏を含む1976年前後に生まれIT業界で活躍する人々は「ナナロク世代」と呼ばれる。mixiモンスターストライク運営)も、2ちゃんねるも、グリーも、DeNA(モバゲー運営)も、はてなも、この世代によるものだ。

d.hatena.ne.jp

 

なお『さよならインターネット』では、その一人である家入氏が衝撃を受けた新入社員の言葉として

「インターネットが好きというのがよくわからない。ハサミを好きって言っているみたいで」

というものが紹介されている。

 「ウェブはバカと暇人のもの」かもしれないが、「バカとハサミは使いよう」でもある。

僕もバカの一人として、ハサミをよりうまく使っていきたいものだ。