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ドイツと日本 ー労働・戦後処理・現在ー

 

日本とドイツは共に第二次世界大戦に敗れ、連合国の占領下にあった歴史を持つ。

また超少子化国であり、工業製品の輸出国である点も共通している。

 

一方、日本で「働き方改革」の議論が行われているが、先進国で、統計データ上で特に労働状況や労働生産性が優秀に見え、労働時間が短い国がドイツである。

 

 

 

『ドイツ人はなぜ、1年に150日休んでも仕事が回るのか』(青春新書)では、ドイツ在住のジャーナリストである熊谷徹氏が、日本とドイツの働き方の違いを分析している。

 

本書によれば、ドイツでは有給休暇が年間30日で取得率は100%が当たり前で、残業については年10日まで追加で振替休日として取得することができ、実質年間150日の休日があるそうだ。さらに病気による欠勤はこれには含まれず、別途、給与保障がつくそうである。

 

「そんなに休んで仕事がまわるのか?」と思うが、「他の同僚にも自分の仕事が分かるよう常に整理整頓しておく」という「チームで仕事を片付ける」という就労文化によるところが大きいようだ(そのため休日が多いのは被雇用者で、経営層は上記のように休暇がとれるわけではない)。

 

一方、日本では「本日は担当者が不在です」といった対応が多く、「仕事が人に紐づいて」いる。担当者でないと仕事が分からない状況だと、休むと仕事がまわらなくなったり長時間労働の原因になってしまう。

 

本書は他にも統計データと、著者が在留中に得た情報により、ドイツの労働・社会政策(特にメルケル首相の前任者のシュレーダーによる改革)、インダストリー4.0などの産業政策など、ドイツ流の優れた面を紹介しつつ、その「良いとこ取り」を薦めている。

 

また、熊谷氏はドイツの戦後処理についての著書もある。

 

 

日本もドイツも、共に第二次世界大戦敗戦国だ。

しかし、日本が中国・韓国等の周辺国と歴史認識で問題を抱えている一方で、現在のドイツはEUの主導国として周辺国からの一定の支持を得ている。もしドイツが日本と同様に、周辺国との問題を抱えたままだったならば、今の地位は築けなかっただろう。

 

なぜ、このような違いが生じたのか。

 

結論から言えば、その大きな要因は、陸続きであったドイツと、島国である日本の違いにあると言えそうだ。

ドイツは世界大戦以前からヒト・モノ・カネ等の交流が盛んだった。「そうした交流抜きでは国として成り立たない」と認識していたドイツは、ナチス政権を自ら徹底的に否定し、賠償金を含めた謝罪をすることによって、「戦中」と「戦後」のドイツを「政治的に連続性のないもの」と周辺国に認識してもらうことに成功したという。

 

例えばドイツは、ナチスによるユダヤ人殺害について600万人という数字を周辺国と共有している。これについて、例えば「実は300万人なのではないか」といった議論をすることも可能だったかもしれないけれど、それよりも周辺国との友好関係構築を優先し、今もなおナチス戦犯の捜査・逮捕を続けている。

 

それに対して、日本は戦前・戦中・戦後について一定の連続性を抱えている。その良し悪しは別として、もし日本が島国でなければ、韓国や中国との問題を差し置いたままにしておくことは難しかっただろう。「ヒト・モノ・カネの中継地点」ではなかったことにより、そういった問題が未解決のまま年月が経ってしまった。

そのため、現在もなかなか周辺国との折り合いがつかず、日本国内でも戦時中についての評価が一致していない。

 

上記2冊はいずれもドイツをある観点からよく理解できる書籍だが、著者の熊谷氏はドイツびいきな面があり、負の側面についてはあまり触れられていないように思える。

そこで次は、ドイツを逆に批判するエマニュエル・トッド氏の著書を紹介したい。

 

 

 「ソ連崩壊」「金融危機」「アラブの春」を、著書の中で次々と予言し的中させてきたとされるのが、フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏だ。2015年5月に翻訳・出版した本書でも、刊行後に行われたイギリスEU離脱の投票結果まで予想し的中させている。

 

本書はフランスでのインタビュー記事をまとめたもので、総論としては「ドイツ」と「ロシア」の関係に注目しつつ、実質的にドイツ主導であるEUを批判した内容だ。

タイトルにある「世界を破滅させる」は言い過ぎな感があるが、本書では「国としてのドイツ」だけでなく「周辺国を含めたドイツ圏」を見ることで、その評価が変わる可能性を示唆している。

 

「周辺国を含めたドイツ圏」とはハンガリーポーランドなどであり、もっと言えばEU全体になる。ドイツは周辺国の安価な労働力や格差を利用して、その高い生産性や経済力を生み出しているというのがトッド氏の指摘だ。

実際、ハンガリーポーランドなどはドイツより長時間労働である一方、その所得は低い。この意見に従えば、ドイツは「お手本の国」から一転して「周辺国との格差を利用して裕福になった国家」という評価になる。

 

もっとも、フランスはプロイセンとの戦争(普仏戦争)まで含めると3度もドイツとの戦争に敗れた歴史がある。

トッド氏はフランス人として、ドイツに追従するしかないフランスの現状に対する不満を隠していない。

 

よって、熊谷氏の意見を鵜呑みにできないのと同様、トッド氏の意見だけを持ってドイツが周辺国との間に問題を与えている国であると決めつけるのも早計に思える。

 

(ドイツの歴史)

いつからがドイツ、どこからがドイツなのか、というのは難しい。しかも、2つ以上の国として併存していた時期も少なくない。

以下は『ドイツを知るための50章』(明石書店)を元に作った年表だ。