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『進撃の巨人』から『ファイアパンチ』まで~敵は「ソト」から「ウチ」そして「セカイ」へ~

社会現象になった諌山創『進撃の巨人』のマンガとしての特徴的な点はいくつもあるが、1つには「壁」の存在が挙げられる。

 

 

 作者のデビュー時の年齢は23歳で、その若さが話題になった。

壁の中で守られている人類という設定は、外部と断絶された「学校」を想起させる。ならば壁の外とは「社会」だ。

若者が社会あるいは大人(自分達を喰い物にしようとする巨人)に反旗を翻す物語の比喩として『進撃の巨人』の魅力を見出だすことは容易だ。

ところが物語は途中から様相を変える。敵は壁の中から現れる。それは巨人であったり、政治的中枢部であったりするが、敵は中の社会(ウチ)に潜んでいたのだ。

 

「敵が社会の中(ウチ)に潜んでいる」という物語設定は、他の人気マンガにも見られる。

 

例えば『亜人(あじん)』は、人間社会の中に「亜人」と呼ばれる通常の人間とは異なる(しかし人間と見分けがつかない)生命体が潜んでいるという設定だ。

  

また『東京喰種(トーキョーグール)』でも、「喰種(グール)」と呼ばれる生物が人間社会に溶け込んでいる。

 

亜人』や『東京喰種』は『進撃の巨人』ほどの社会現象にはなっていないが、3作品ともアニメ化、実写映画化がされた(またはされる予定)ので、人気作品と言って良いだろう。

 

 さらに『ファイアパンチ』も、主人公など一部の人間が「祝福」と呼ばれる超能力を持っている。

 

 これら4作品には、別の共通点もある。

それは主人公自身が「本人の意図することなく」、巨人になり、亜人であり、喰種になり、祝福者である点だ。

そのためそれぞれの主人公は、社会の異物として物語に存在しながらも、同じ異物である巨人、亜人、喰種、祝福者と戦うことになる。

この「異物」を「少数派」と見れば、ヘイトスピーチLGBTといった「マイノリティ」に関わる社会問題との関連を見出だすこともできるかもしれない。マイノリティは、自分ではどうにもできない事情により少数の側に立たされている人たちだ。

これらの作品の主人公たちもマイノリティの側に立っていると言えるだろう。

 

そういった共通項を持つ物語群の中で、『東京喰種』は、その続編『東京喰種:re』において、物語の重要なファクターである「隻眼の王」が明らかになると大きな反転を見せ、その敵は再びソト、それも「セカイ」に向けられることになる。

「人間と喰種が憎み合い争うセカイ」が『東京喰種:re』の新たな敵だ。

 (ここでいう「セカイ」は、『新世紀エヴァンゲリオン』に代表される「セカイ系」とは異なる)

 

 

「セカイ」との闘いは、「氷の魔女」に支配されたセカイを舞台とする『ファイアパンチ』においても強烈に描かれている。

また『進撃の巨人』も、21~22巻にかけて、その物語が大きな反転を見せ、敵は再び壁の外、それもこれまでとは異なる大きな「セカイ」に設定されることになった。

 

これらの共通して見られるように思える物語転換にも、社会状況が何かしらの影響を与えているのだろうか。

※『ファイアパンチ』においては「セカイが敵」なのは初期設定であり、転換ではない。

※『進撃の巨人』が当初から壁の外を目指していたこと、『東京喰種』が初期に「人間と喰種との融和」に触れていたことから、原点回帰とみることもできるだろう。

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